日本
中国古代国家と社会システム-長江流域出土資料の研究-(汲古叢書)
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中国古代国家と社会システム-長江流域出土資料の研究-(汲古叢書)
- 出版社
- 汲古書院
- 出版年月日
- 2009.06
- 価格
- ¥14,300
- ページ数
- 558
- ISBN番号
- 9784762925849
- 説明
- 出土文字資料の分析から、古代中国社会の原型を理解する。
【あとがき】より
本書は、中国文明の原型となる秦漢時代について、とくに統一国家の成立と地域社会の実態を考察したものである。それと同時に、長江流域の出土資料を整理して、漢簡とあわせた中国古代の資料学を構築する基礎にしたいと考えた。主な対象としたのは、戦国時代の包山楚簡と睡虎地秦簡、秦代の里耶秦簡、漢代の張家山漢簡「津関令」である。とりあげた資料は、暦、紀年資料、系譜、文書の処理をする簡牘、符券、付札(楬)、壁書と扁書、交通に関する伝と致、告地策、地名里程簡、書籍、書信と名謁などである。その内容は、二〇〇三年以降に発表した論文を基礎にしているが、細部の解釈をのぞいて大きな論点は変更していない。里耶秦簡は、当初に『文物』に公表された資料をもとに分析し、のちに『里耶発掘報告』によって再論したため重複もみられるが、あえて部分的な整理にとどめている。また本書では、歴史学以外の分野や、日本古代の木簡研究との比較を意識しており、他分野の方にも分かるように概略を述べたところがある。
中国の出土資料は、画像テキストと釈文・考証や、多くの研究成果が蓄積されている。また今も発掘と公開がつづいており、その全体はなかなか展望しにくい状況である。里耶秦簡も、わずかな資料が公開されているにすぎない。こうしたなかで大まかな総括を試みるのは、個別の研究や集成を整えたうえですべきであり、時期尚早という見方があるかもしれない。しかし研究の細分化によって、ますます全体がみえにくくなることも予想される。そこで従来の簡牘文書学や出土文献学の論点とはちがって、サンプルとなる簡牘の機能や情報伝達の原理からみれば、まだ公表されていない資料をふくめて、簡牘のパターンが推測できるのではないかと考えたのである。さらに秦代では、地方行政の体系が成立しているにもかかわらず、同時に不正に対処する命令が出されていた。これは秦の占領統治に対して、地域社会の人々と共存する問題点となり、情報社会に対する現代的な意義を示唆している。本書は、ささやかな考察であるが、こうした中国の国家と社会システムの特質を考える一助になれば幸いである。